蒼夏の螺旋

  “今晩は まめごはんvv”
 


正に日替わりのようなペースにて、
極寒と春めきが入れ替わり立ち変わりで襲って来るという、
何とも落ち着けぬ日々が何日か続いたが。
さすがにお彼岸も近くなって来ると、
吹き来る風は冷たいながら、
気温やら陽射しやらが、
すっかりと春のそれへと定着を見せて来て。

 「その代わり、明け方の冷えようはキッツイけどもな。」

放射冷却っていうんだろ?
その日がとってもいいお天気になるって前兆だから、
むしろ喜ぶべきなんだろけどさ、と。
一応、それなりの理解はあるような言いようをした、
童顔小柄な若奥様こと、ルフィが真に言いたかったことはと言えば、

 「布団から出るのが億劫でさ。」

食後のお茶だと、湯気の立ちのぼる湯飲みを差し出しつつ、
微妙に むうとしたお顔とともに付け足された一言へ、

 「そういや、いつまでもゴソゴソしてるものな。」

間もなく出勤ということで、
ぴしっと角の立ったワイシャツの襟、
窓からさし入る朝の陽に真白く光らせつつ。
営業部の星でありながら、同時に“隠れ愛妻家”でもある、
ご亭主のゾロさんが“ふふん”と うっすら微笑ったものだから、

 「…だってさ。/////////」

一番冷え込む朝っぱらだってのに、
ぴとんと寄り添う大好きな温みから、
剥がれるのがヤなだけだもん、悪いかと。
あと1分、あと1秒とばかり、
動きたくないようとの悪あがきをすること、
からかわれたような気がしたのだろ、
奥方が真ん丸な頬を ますますのこと膨らませて見せれば。

 「そうは言うが、
  雪が降ってるとなると、窓まで駆け出してるくせに。」

 「う〜〜〜っ。////////」

北国の出身ではあるけれど、
うんざりするほど積もるというよな地域じゃあなかったせいだろか。
小さな奥方、いまだに雪は大好きと来て、
それを持ち出されると、反駁の余地がなくなるらしく、
うーうーと唸ってばかりとなるのがまた、

 “…可愛いったらありゃしねぇんだからよ。”

はいはい、御馳走様でした。
(苦笑)
“ゾロなんか、い〜〜だ”なんて、
子供じみた悪態をついて見せる奥方も、
ふふと小さく微笑うばかりのご亭主に見つめられていると、

 「………ゾロ、狡りぃ。」
 「何がだよ。」
 「何ででもっ。//////」

おやおや、何だか絆
(ほだ)されちゃっておりますね。
ハラハラするだけ、無駄というか野暮というか、
そんな他愛ない“角突き合い”を見せてのそれから、

 「あ、そだそだ。今日は まめご飯だかんな。」

社員食堂とか外の定食とかで出てても食べてくんなよ?
おう、楽しみにしてる…なんて、
つまりは、あっさりと修復出来ちゃってる程度の仲たがいだったの、
あっと言う間に過去へと葬り、

 そういや、昨日のテレビでさ、
 結構 年いったおじさんが、
 なのに苦手だからって、
 社員食堂で出たまめご飯のグリンピースを
 1粒1粒 取り避けててさ。

 「家じゃあ、好き嫌いなんてしたら罰が当たるっなんて、
  大威張りで言ってそうなおじさんだったから、何か意外だったなぁ。」

食事は終わったが、目の前にあったもんだからついというものか。
それもまた春めきの黄色に染まったたくわんを一切れ、
お口へ放り込んでの、かりこり・もぎゅもぎゅと摘まみつつ、
感慨深げに言い出すルフィで。

 「そりゃあまあ、
  いくら年長な人であれ、苦手なもんの1個もあろうよ。」

 大酒飲みには、その代わり甘いもんが苦手だってのがよくいるし。
 あ、それってゾロのことだもんなvv
 そういうお前だって、辛いものは苦手じゃねぇか。
 でも、俺こんにゃく平気だもんよvv
 その代わり、シソは残すだろうが。
 え? 何で知ってんだ、ゾロ?

それってサンジにも隠しおおせてたんだのに、と。
余程のこと意表を衝かれたのだろう、
えええっ?と目を見張ったルフィであり。
そんなお顔をさせられたことで、
こたびの舌戦はこっちの勝ちとでも言いたいか。
その口許へ、ふふふんと余裕の笑み浮かべ、
席から立ち上がった旦那様、

 「なあなあ、何で知ってたんだよぉ。」

そろそろ時間か、ジャケットを羽織るのへ、
サイドボードへと出しておいたハンカチを渡しつつ、
なあなあと訊く奥方だったが、

 「内緒だ。」
 「ええ〜〜っ?」
 「つか、そんなもん見てりゃあ判るって。」
 「だってさ、同じもん食ってんじゃんか。」

どんなに自分が苦手でも、
刺身やイカのシソ巻きなんての作るときは、
ちゃんと忘れずに添えてたし。
ほんのちょびっとならばって、頑張って食べてもいたのにサ。

 「何か、頑張ったのが意味なかったみたいじゃんか。」

ぷぷうと口許を尖らせまでするもんだから。
あんまりにも愛らしい拗ね方へこそ、
苦笑が洩れたゾロが、玄関口にてやっと降参。

 「意味がないなんてことはなかろうさ。」

何でも食べるのは良いことなんだし、それに、

 「気がついてないのは、お前だけかもしんないぞ?」
 「? 何が?」

 だってお前、シソと向かい合うときは、
 まるで今から潜りますって言わんばかりに、

 「呼吸を整えてから、せーのって勢いで息止めてるじゃんか。」
 「…………………え?////////」

 う、うそだっ。
 嘘なんかじゃねぇさ。
 だってそんなの、判りやすすぎじゃんか。///////
 だから言ってんじゃねぇかよ。
 だって…だってさっ。

 「こちとら小さいころから、
  そんなして毎回我慢してんのずっと見てたんだからよ。」
 「ううう〜〜〜〜。////////」

スーツの上着とスプリングコートと、
大きな肩へひょいっと軽快に羽織りつつ、
くすすと重ねて微笑ったご亭主ではあったものの、

 「さっき、あのヤロにも気づかれてねぇって言ってたが。」
 「??? ああ、うん。」

だってサンジってば、時々“シソ風味の何とか”って料理も作ってたからさ。
俺が苦手だって気がついてたんなら、そんなもん出さねぇってと、
そんな風に言い足したルフィだったが、

 「……そりゃあ、どうだろか。」
 「へ?」
 「いや、なんでもね。」

言葉を濁すと、じゃあ行ってくると、
まだ少しほど合点がいってないらしく、
小首を傾げたまんまだった、
小さな奥方のおでこへ、口許を当てるだけの“ちう”をして。
とっとと出掛けてしまったご亭主だったが。


 ―― それってあれじゃない?
    サンジくんも気づいてて、
    でもルフィの困り顔がかわいいからって
    わざとに苦手なもの出してたんじゃないかって。
    そう思っちゃったゾロなのかもよ?と。


お昼前のチャットにて、
某 有名経営コンサルタントさんの奥方に、
ずばりと指摘を受けるまで、
全くの全然、意味が判らないままだったルフィだったのは、
言うまでもなかったのでありました。(おそまつ)




  〜Fine〜  10.03.19.


  *依然として緊迫の原作様だってのに、
   ウチでは何のこっちゃなお話ですいません。(まったくだ)
   ウチのルフィはシソが苦手で、
   片やのゾロはこんにゃくがダメです。
   サンジさんは虫がダメで、ウソップはキノコが苦手だそうですが、
   それ以外の面子の好き嫌い
(?)は、
   まだそんなに明かされてなかったんじゃあなかったか。
   ちなみに、わたしがずっと“???”と思ってたのは、
   チョッパーが割と普通に肉も食べてるところです。
   ちゃんと消化出来てるんだろうか?
   倍くらい草も食べないと、胃にもたれるんじゃないのかなぁ?


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